PRODUCTION NOTEプロダクションノート

企画の成り立ち

「海猿」をはじめ、海洋保安庁や警察やレスキュー隊など、これまで硬派な“職業”をモチーフにした原案や小説を手掛け、その多くが映像化されてきた小森陽一。そんな小森が初めて主人公に女性を据えた小説「オズの世界」は、映画『海猿』シリーズのプロデューサーであり、本作でエグゼクティブ・プロデューサーを務めるROBOTの安藤親広の目にすぐに留まった。 「長い付き合いの小森さんが、初めてヒロインもののお仕事小説を書かれたと聞き、すぐに読みました。ご一緒した『海猿』シリーズとは真逆の、可愛らしい映画が撮れそうだ、とすぐに映画化を打診しました」。

執筆当時から映像化が念頭にあったという小森は、もちろん快諾。すぐさまROBOTの長谷川晴彦プロデューサー(以下、回答はすべて長谷川Pによるもの)は、実現に向けて監督、脚本家の選定に動き出した。

監督として最初に名前が挙がったのは、ドラマ&映画『SP』シリーズやドラマ「BORDER」など、アクション作品のイメージが強い波多野貴文。安藤エグゼクティブ・プロデューサーと長谷川Pは、持論“腕のいい監督は、どんなジャンルでも上手く撮ることができる。だから波多野監督にハートフルな作品を撮って欲しい”と、かねてからの思いがあり波多野監督に即決した。
「本作の脚本開発中に、偶然ラブコメディ・ドラマ「わたしに運命の恋なんてありえないって思ってた」(KTV)を、波多野監督が撮ることになったんです。そうしたら、やっぱりラブコメも非常に上手かった。動画配信サービスで、かなり高い再生数を記録したんです」と、自らの持論が正しいことに自信を深めた上での、本作撮入となった。

誰も見たことのない“お仕事ムービー”

ズバリ、本作のお仕事は、遊園地の裏方。遊園地を舞台とした作品は多々あるが、遊園地でのお仕事自体をモチーフとした作品は、そうそう見当たらない。長谷川P曰く、「連続ドラマにできるくらい、おかずが盛りだくさんの小説を、いかに一人の女の子の物語に凝縮し、彼女の目を通しつつ、彼女自身の成長を描けるか。しかも“遊園地のお仕事”なんて、僕が知る限り見たことがない。もしかしたら“これまで見たことのない映画になれるかも”という思いを抱きました。さらにヒーローでもなんでもない、等身大な職業というのも、挑戦する大きな魅力でした」。

脚本家として白羽の矢が立てられたのは、ドラマ「花のち晴れ〜花男 Next Season〜」も話題の吉田恵里香。その女性らしく若い感性に、大きな期待が託された。「プロデューサー陣も監督も40、50代のオッサンばかりなので(笑)、20代のフレッシュな女性脚本家さんがいいな、という思いから、映画『ヒロイン失格』も素晴らしかった吉田さん(本作の執筆当時28~29歳)にお願いしました」。
その結果、「僕らが逆立ちしても出て来ないようなセリフを、吉田さんが書かれてきて、初稿の段階で驚き、感心しましたね。鮮度が素晴らしい。早速、小森さんにも読んでもらいましたが、いい意味で“自分の原作じゃないみたいだ”と驚かれていました。若い女性だからこその、女性的な目線や本音、そして言い回しがすごく新鮮でした!」と長谷川Pが喜ぶように、遊園地で新入社員として働き始めるひとりの女性・波平久瑠美の、誰もが共感できる等身大の成長物語が完成した。

久瑠美が自らの力で
大切なことに気づき、
自らの成長を促していく物語に
したかったんです。

また映画独自の方向性として、脚本開発チームはさらに新たな試みを掲げ、“誰も観たことがない映画”を目指した。
「例えば『アウトレイジ』が全員悪人なら、『オズランド』は全員善人(笑)。本作には、悪い人が一人も出て来ないんです。主人公が挫折を味わい、強くなり、成長していくという物語は、オーソドックスなパターンとして、必ず敵対する人やグループ、意地悪な人たちが立ちはだかるもの。その方が、展開にメリハリをつけ、盛り上げることが容易い。でも敢えて今回の映画では、それを封印してみよう、と。久瑠美が自らの力で大切なことに気づき、自らの成長を促していく物語にしたかったんです。色んな意味でこの『オズランド』という映画は、地味に“観たことのない映画”を目指しているんですよ」。

実在の遊園地が舞台、登場人物も実在!?

小森による原作小説は、熊本県に実在する遊園地「グリーンランド」がモデル(小説での遊園地名は“東洋スーパーワンダーランド”)。本作は、実際にその「グリーンランド」で撮影が行われた。まずは脚本開発にあたり、プロデューサー、監督、脚本家が一丸となり、シナハン(シナリオ・ハンティング)が行われた。 「死ぬほど歩き回りましたよ(笑)。原作で活字として読んでいた世界が目の前に広がる、実在していたぞ、という経験は面白かったですね。映画で西島秀俊さんが演じる“小塚”という役は、実際にグリーンランドで働いていた方がモデル。僕らも彼に色々と話を聞き、小説には書かれなかったエピソードを、脚本に盛り込んでいきました。岡山天音くんが演じた吉村も、東大卒の新入社員という実在のモデルを基に、映画で作り出したキャラクターです」。

撮影は、「かつてこんなに協力してくれたロケ地があったか?」というほどの手厚い待遇の中、グリーンランドの営業中に堂々と行われた。だが実際のお客さんが映り込むのはご法度。そのため大量のエキストラを日々要することとなったが、ここでも熊本の人々の温かさ、手厚い協力を大いに感じることとなった。 ちなみに福岡在住の原作者・小森陽一の奥様も、夫の映画化作品に際して初めて「出たい」と意志表示をされたそうで、エキストラとして協力すべく、多数のお友達を伴って現場に姿を現してくれたという。

原作とは大きく異なるのが、クライマックス。映画ならではのクライマックスをと考え“どんなことでもいいから世界一の遊園地を目指す”小塚の思いを久瑠美が叶えようとする、気球で一万個の風船を撒くという、大きな意味あるシーンに結実させた。
「監督と脚本家と何度も打合せを重ね、久瑠美が小塚に対してサプライズを仕掛け、小塚の願いを叶える、という映画ならではの素晴らしいシーンにすることができたと自負しています」と長谷川Pが自信を覗かせる。

大作初座長の波瑠をはじめ、
理想のキャスティングが実現

小説のヒロインの名前からも分かるように、当初から原作者・小森の頭の中にはヒロイン(波平久瑠美)=波瑠がイメージされていたという。その思いを受け、映画チームも“ヒロインは波瑠”しかいないと進められた。
「脚本が出来上がっていない段階で、波瑠さんにオファーを出し、多忙なスケジュール調整に入っていただいていましたので、大いなるプレッシャーの中、必死に脚本づくりをしましたね。「BORDER」で波多野監督と波瑠さんがご一緒されたことも大きいと思いますが、脚本の最終稿の面白さが、出演の決め手となったと思います」と長谷川P。

すべてを計算して
演技されていたことに
改めて気づき、
本当に驚かされました

数々のドラマで主演を務めてきているなか、全国一斉拡大公開規模の大作映画としては、波瑠が主演という大役を担うのは初となる。
「ドラマでも高い評価を得ている女優さんなので、今回は、映画女優としての彼女の可能性やポテンシャルが必要だったのです。今回の現場はほぼ地方ロケ、かつ順撮りからは程遠く、撮り順が滅茶苦茶。役者としては気持ちを作るのが非常に難しかったと思います。ところがすべてを繋いでみたら、心情の変化や表情の違いなど、すべてを計算して演技されていたことに改めて気づき、本当に驚かされました。スクリーンに映し出される姿含めて、映画女優としてのポテンシャルの高さは素晴らしいと思いました」
波瑠の多忙ぶりは想像に難くないが、本作に賭ける彼女の強い思いに長谷川Pも心打たれた。
「完全にスケジュールをこの映画のために割き、熊本に来てくれた。現場では非常にストイックに本作に集中してくれ、女優魂を感じました」。

そして、波瑠と共に、現場を引っ張ったのは、こちらも多くのドラマや映画で多忙を極めている西島秀俊。「現場でクリエイティブな面で意見の交換をする際も、非常に柔らかい態度と気遣いで、西島さんが度々現場を和らげてくれて。西島さんには本当に何度も助けられましたね」と長谷川Pが笑う。
だが小塚という役は、西島の近年の出演作からのイメージからは遠い。底抜けに明るい西島の笑顔に、多くの人は驚かされるに違いない。
「確かに「MOZU」をはじめ、クールな表情をしている役柄が続いていますが、僕は最初から西島さんをイメージしていました。CMなどで見せるコミカルな顔を覗ける、柔らかい役を観て見たい、と思っていたんです。そうしたら完全に三枚目の小塚を、可愛くてとてもコミカルに演じて下さって、本当に良かったです! 実はご自身も“こんな明るい役が来たのは何年ぶりかな”とおっしゃっていましたが、同時に“一番得意なのは、実はココなんです”と。小塚のモデルとなった方も、“え、僕の役を西島さんが演じて下さるの?”とすごく喜んで下さって(笑)。西島さんも、ご本人に何度かお会いになられ、インスピレーションをもらっていたと思います」。

その他、「若手俳優人の中で、お芝居に定評のある岡山天音さんも、最初から彼に決めていました。橋本愛さんには、熊本ご出身ということもあり、敢えてパブリック・イメージとは少し離れた役を演じてもらいたいと、口説き倒しました(笑)。最終稿の面白さが決め手となり、引き受けていただけて良かったです。故郷で撮っていることもあり、すごく気持ち良さそうにお芝居をされていたな、という印象が残っています」

衣装に現れるキャラクター性

原色の黄色地に赤と青の入った派手なユニフォームは、実際のグリーンランドで着用されている制服。映画の中で、一つのキャラクターとも言えるこの制服の着用には、監督がこだわった。一方、そのド派手ユニフォームの下は、各々自前の服という設定だが、久瑠美を演じた波瑠から、衣装に役を反映させたある提案がなされたという。
「東京から来たばかりの久瑠美は、遊園地で肉体労働をするにもかかわらず、前半はガウチョパンツを履いている。それも波瑠さんのアイディアでした。まだプライドが残っていて、悩んでいる期間はガウチョなんですよ。それが段々と、動きやすい細身のパンツスタイルに変化していくんです。久瑠美の心情に合わせて衣装を変えていくと波瑠さんから提案していただき、その上で衣装を選んで頂きました。繋がった絵を観て、本当に素晴らしかったです。」
一方、西島からもこんな意見がもたらされた。それによりクランクイン初日のファーストカットで、みんなから歓声が上がり、長谷川Pも本作の成功を確信したという。
「クランクインは、具合の悪い豚と小塚が添い寝した翌朝のシーンでした。実はその時の小塚の服装がすごくダサいんですよ(笑)。西島さんのイメージから、少しスタイリッシュな衣装を用意していたのですが、西島さんが“それは違います、小塚は、ダサめのおじさんじゃないといけない役なんです”とおっしゃられ、今回の衣装を選ばれたんです。そのシーンで、小塚が柔らかく笑って、不機嫌な久瑠美に“オヅカー賞あげちゃう”と言うのですが、その瞬間、みんなから“うわ~、小塚が西島さんで本当に良かった~”という歓声が上がりました」と振り返る。

女性にエールを贈る音楽

作品を包み込む音楽に関しても、女性の感性を取り入れようと、新進の白石めぐみが起用された。
「以前、波多野監督が演出に参加した深夜ドラマ「終電バイバイ」で、白石さんにお願いしたことがあるのですが、その時の感触がすごく良かったんです。物語の内容に寄り添ってくれる作曲家の方なので、今回もお願いしました。もう、音楽に関しても大満足です。女性ならではの目線を映画から感じ取ってくださり、女性らしい柔らかいメロディで映画を支えてくれています」と長谷川P。

主題歌は、Dream Amiに書き下ろしがオーダーされた。
「元々この映画を、女性たちの応援映画というか、働く女性に捧げるエナジー・チャージのような映画を目指していたので、Amiさんに“女性が元気になれる曲を書いてください”とお願いしました。歌詞も含め、時間をかけてとても丁寧に作って下さって、感謝しています」